四国自動車博物館

CR93 STREET

まぎれのないリアル・ロードゴーイング・レーサー CR93

時代背景:ホンダの世界GP参戦と栄光

第二次大戦後に始まった世界ロードレース選手権(WGP、現MotoGP)に、日本メーカーとして初めて本格参戦したのがホンダだった。ホンダは1959年のマン島TTレース125ccクラス(Ultra-Lightweight TT)で世界デビューを果たし、チーム賞を獲得する。当初は欧州勢に比べて非力と見られていましたが、驚異的なスピードで開発を進め、1960年には早くも初表彰台を記録。そして迎えた1961年、ホンダは125ccと250ccクラスで初優勝を飾り、その年の両クラスのワールドチャンピオンタイトルを獲得した。その後も快進撃は続き、同年のマン島TTレースでは125ccクラスと250ccクラスの双方で上位5位までをホンダのマシンが独占するという偉業を達成した。125ccクラスではマイク・ヘイルウッド、ルイジ・タベリ、トム・フィリス、ジム・レッドマン、島崎貞夫の順にホンダ・2RC143が1位から5位を独占し、250ccクラスでもナオミ・谷口、高橋国光、ジム・レッドマン、トム・フィリス、マイク・ヘイルウッドがホンダ・RC162で上位を独占している。欧州の強豪を相手に成し遂げたこれらの成果により、ホンダの名は世界中にとどろき、日本製オートバイの技術力を示す転機となった。

市販レーサー誕生:RCワークスマシンからCRシリーズへ

ホンダはWGPで培った先端技術を、市販車にもフィードバックしていく。1962年、ホンダはグランプリマシンのテクノロジーを投入した一連の市販レーサー「CRシリーズ」を発表した。排気量別に50ccクラスの CR110、125ccクラスの CR93、250ccクラスの CR72(さらに305ccクラス向けに後にCR77も登場。)というラインナップだ。これらはクラブマンレース(市販車ベースの草レース)に参加する有力ライダーたちに供給する目的で開発されたマシンで、当時としては考えられないほどワークスマシン直系の高度な機構を備えていた。とくに125ccのCR93は、同時期のホンダワークス125ccマシン(RC144/RC145)と極めて近い仕様を持ち、「市販されたワークスレーサー」とも評される存在だ。

市販バイクを発売した背景には、国内レース事情もあった。1962年当時、全日本クラブマンレースのノービスクラス規定で「運輸省型式認定(ホモロゲーション)取得済みの市販車」が必要と定められたため、ホンダはこの条件を満たすべくCR93およびCR110を公道走行可能な形で少数市販した。ホンダ初の125cc市販スーパースポーツモデルであった「ベンリイCB92スーパースポーツ」(1959年発売、124cc OHC並列2気筒15馬力/10,500rpm)と比較しても、CR93の投入は画期的だった。市販レーサーCR93は販売価格が当時30万円と、例えばCB92(15万5千円)の約2倍にも設定されたが、それでも購入を望む者が後を絶たなかったと伝えられている。当時の大卒初任給が約1万5千円なので、30万円という価格は破格ながら、それだけこのマシンが魅力的であった証と言えるだろう。当初の生産台数はわずか50台程度とされたが、最終的な総生産数もごく少数(諸説ありますが約250台とも)にとどまっている。多くはレース目的で国内外に渡り、その後の過酷な使用もあって現存数は極めて少ない希少車となった。

表 CB92とCR93の比較

特徴ホンダ ベンリィ スーパースポーツ CB92ホンダ CR93 ストリート
登場年1959年1962年
ターゲット市場ストリートスポーツ / クラブマンレーサープライベーターレーサー
エンジン形式OHC, チェーン駆動DOHC, カムギアトレーン
排気量124 cc124.8 cc
最高出力15 ps/10,500 rpm16.5 ps/11,500 rpm
変速機4速5速
始動方式セル / キック併用キックのみ
主要な特徴万能性とアクセシビリティ妥協なきパフォーマンス

技術と性能:市販車の域を超えたレーシングスペック

CR93が「リアル・ロードゴーイング・レーサー(公道を走れる本物のレーサー)」と称されるゆえんは、そのメカニズムと性能にある。エンジンは空冷4ストローク並列2気筒125ccで、DOHC4バルブのヘッドを持ち、高精度なギアトレーン(カムギア駆動)によってカムシャフトを駆動する。各シリンダーに4バルブを配したこのエンジンは、市販125ccとしては異例の13,500rpmもの高回転で最大21.5PS(馬力)を発生した。圧縮比10.8:1、高精度マグネト点火、ツインキャブレターなど当時最先端の技術を投入し、小排気量ながら驚異的な出力を実現している。トランスミッションは常時噛合式の5速、クラッチはレーシングマシンらしく乾式を採用。排気は集合ではなく左右2本のメガホン型マフラーから放たれ、その高音域まで一気に吹け上がるエキゾーストノートはまさにレーサーそのものだった。

シャシも完全にレース志向でまとめられている。高張力鋼によるパイプフレームにテレスコピック式フロントフォークとスイングアーム式リヤサスを装備し、ブレーキは前輪に径200mmのツーリーディングシュー式ドラムブレーキ、後輪も径175mmのリーディングトレーリング式ドラムブレーキを備えた。前後18インチホイールに細身のレーシングタイヤ(前2.50-18/後2.75-18)を履き、ステップ(足置き)は大きく後退させたレーサーポジション、ハンドルも低く構えたセパレートタイプに変更が可能。市販公道モデルでは最低限の灯火類とナンバープレートが付くだけで、レーサーとほぼ同じ外観・構成だった。アルミ製燃料タンクからシングルシートに続く流麗な車体ライン、各部の軽量化加工、そしてエンジン両脇にむき出しのカムギアケースが放つメカニカルな存在感など、機能を極限まで追求した造形美が漂っている。乾燥重量は約127kgと軽量で、最高速度はノンカウル状態で135km/h以上、カウル(整流カバー)装着時には155km/hに達したと記録されている。このようにCR93は、公道走行が可能とはいえ当時のワークスマシンに肉薄するスペックを誇り、市販車の常識を超えた競技志向のマシンだった。

保安部品付きのCR93: 四国自動車博物館に展示されている公道仕様のCR93。ヘッドライト、ウインカー、ミラーなど最小限の保安部品を備えるが、その基本構成はレーサーそのものである。

Honda CR93: A Real Road-Going Racer

After winning its first World Championship titles in the World Road Race Championship (WGP) in 1961, Honda funneled its racing technology into production bikes, releasing the CR series in 1962. Among them, the 125cc CR93 was particularly distinctive. This machine featured an engine with a DOHC 4-valve, gear-driven camshaft setup, very similar to the works racers RC144/RC145 of the time. It produced an astonishing 21.5PS at 13,500rpm, a remarkable feat for a production bike. Coupled with a light dry weight of 127kg, it reached a top speed of 155km/h.

To comply with the regulations of the All Japan Clubman Race, CR93s were produced in small numbers as street-legal bikes. Priced at 300,000 yen--about twice the cost of the CB92--demand for this high-performance, rare motorcycle was insatiable. Initial production was limited to just around 50 units, with the final total estimated at approximately 250 units.

The CR93 proved its mettle in races, achieving a remarkable third-place finish in the 125cc class at the 1962 Isle of Man TT despite being a privateer machine. It also performed well in various national championships, proving that a production bike could compete against works machines. However, with the rise of two-stroke engines in the mid-1960s, the four-stroke CR93 lost its competitive edge, and its racing career was limited after Honda's temporary withdrawal from WGP in 1967.

Today, the CR93 is an extremely valuable collector's item and is regarded as the root of Honda's production racers, a legendary machine that embodies the company's passion and engineering prowess.

Honda CR93:一款名副其實的公路賽車

在1961年世界道路賽車錦標賽(WGP)中首次奪得世界冠軍頭銜後,Honda將其賽車技術應用於量產車,並於1962年發布了CR系列。其中,125cc的「CR93」尤為引人注目。這款摩托車搭載了與當時廠隊賽車RC144/RC145極為相似的DOHC四氣門、齒輪驅動凸輪軸引擎。作為量產車,它在13,500rpm的轉速下可爆發出驚人的21.5匹馬力,配合127公斤的輕量化車身,最高時速可達155公里/小時。

為了滿足當時日本全國俱樂部賽的規定,CR93以可合法上路的形態進行了少量生產。其售價高達30萬日元,約為CB92的兩倍,但憑藉其卓越性能和稀有性,仍吸引了無數車迷爭相購買。據說最初的生產量僅為50輛左右,最終總產量也僅約250輛。

CR93在賽場上也取得了不俗的成績。1962年的曼島TT賽125cc級別中,儘管只是一輛私人車隊使用的版本,CR93仍奇蹟般地獲得了季軍。它還在各國國內賽事中表現出色,證明了量產車也能與廠隊賽車一較高下。然而,隨著1960年代中期二衝程引擎的崛起,四衝程的CR93逐漸失去競爭優勢,並在Honda於1967年暫停WGP活動後,其賽車生涯也受到限制。

如今,CR93已成為極其珍貴的收藏品,被視為Honda量產賽車的起源,是一款承載著Honda熱情與技術實力的傳奇之作。


specification
製造年 1962年 エンジン 空冷4サイクル並列2気筒DOHCギヤ駆動
排気量 124.8cc 最大馬力 21.5ps / 13,500rpm
最大トルク 1.05kgm / 10,700rpm 最高速度 135km/h カウリング装着155km/h
変速機 5速 サスペンション 前/テレスコピック 後/スイングアーム